「働く」と「生きる」を楽しむためのレシピ

「人生100年」と言われるようになり、生涯現役がもはや当たり前の時代に突入。一人ひとりが「自分らしさ」を見つけ、ワーク&ライフを楽しむためのヒントについて考えていきます。

自分は変えられるのか、他人は変えられないのか①

 今日の材料:自分を変える、他人を変える、社長評価、意図せぬ「問い」

「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」

カナダ出身の精神科医エリック・バーン氏の有名な言葉です。エリック・バーン氏は自らの心理学理論に基づく心理療法交流分析』を考案した人。『交流分析』は、自分自身、そして自分と他者との交流の仕方を構造的に分析する方法です。心理学の授業やカウンセリング等の資格試験で、必ずといっていいほど紹介されています。

そんなバーン氏のこの言葉、人間関係や生き方などを考える上で、私自身も若い頃からずいぶんと役立ててきました。

でも最近、少し違う思考が芽生えています。それは、「自分」という存在は他人との関係性の中でしかとらえられない、と考えるようになったからだと思います。

そのことは、【「自分らしさ」や「自分探し」という言葉が嫌われる理由 】、【「自分とは何か」を探るヒントは人との関係性の中にある  】という記事でも書いてきました。

もし関係性を問わず揺るぎない「自分」などない、という前提に立つなら、果たして「自分を変える」ことは可能と言い切れるのか。その一方で、関係性という視点に立つならば、自分の影響で「他人を変える」ことは、必ずしも不可能とは言い切れないのではないでしょうか。

そして過去についても、確かに物理的に起こってしまった出来事は変えられません。でも、【自分史を書いてみませんか】という記事でも書いたように、過去はそれを思い出す「今」の自分が創っている部分がとても大きいのです過去は本当に変えられないのでしょうか。

そんなことを考えていた私に最近、過去と関係性を問い直す興味深いストーリーを聴く機会がありました。今回はそのうちの1つをご紹介します。

 

 

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「働く」と「生きる」を考える私の指南役かつパートナーI社のI社長。【多くの人が変わるには、多様なきっかけが必要だ 】という記事で書いたように、20年近く会社の改革を続け、社員たちに気づきと変化のきっかけを与え続けています。余談ですが1年近く前に書いたこの記事、検索で今でも毎日のように読まれているようです。

そんなI社長が改革を始めた時、一方的な改革になってはならないと考えました。そこで社長になってすぐ、無記名で社長評価をしてもらうことを自ら決定したのです。毎年続ける中で、当初はいわゆる「ハネムーン期間」で高い評価を得られたものの、数年後に評価が逆転、支持しない人が半数に上るようになりました。

悩んだ末、I社長は「自分がどう変わるべきか」を部門長たちに相談しました。自分自身の経営行動を見直すための意見が欲しかったのです。でも、その言葉を聞いて評価を見直した部門長たちの反応は、意外なものでした。

これは社長に対する評価ではなく、自分たちが社長の考えや想いを部署の社員たち伝えきれていないことに対する評価なのかもしれない。

社長評価を自分事としてとらえ、自分たちがこの後どうすべきかを考え始めたそうです。その時のことを、I社長はこんなふうに話しています。

予想もしていなかった反応がかえってきたので、驚いたと同時に新たな発見がありました。自分の弱みを見せたことで、それまでとは違った関係性を築けることができたのは、私の人生でいくつかあった大きなターニングポイントの1つです。そのぐらいインパクトの大きい出来事でした。

I社長はこの改革を始める前、一方的な「やらせ」によって社員たちの意識改革に失敗するという苦い経験をしていました。だからこそ、常に社員との関係性を意識しながら、「いかに気づきを与えられるか」を問い続けてきました。

でも、そこまで考える社長であっても、社員から評価を得ることは簡単ではない。経営というのものの厳しさを改めて実感しますが、そんな中で意識された部門長たちとの関係性の変化。そのことが人生の「ターニングポイント」と話すI社長自身にとって、自分の変化を感じる瞬間だったことは間違いないでしょう。

決して意図したわけではないものの、この「助けてほしい」という言葉は、部門長たちを動かす究極の「問い」だったのです。でもこれは、言葉そのものの力ではありません。社長がとことん自分に向き合った上で、発した言葉だったからです。そもそも、自分を評価することを自ら決定できる社長など、この世に一体何人いるでしょうか。

今、I社長は「自分らしい経営ができている」と自信を持って語っています。でもそれは、このストーリーを含めた無数のストーリーの積み重ねでした。この積み重ねの中で今、最初の「苦い経験」すら自分自身の経営行動の原点だった、と感じています。「過去」は違うものとして解釈されるようになったのです。

日常の中で「自分とは何か」に真剣に向き合い、関係性に敏感でいることから生まれた意図せぬ「問い」。そして、それが自分自身や周りの人を変えること。もしかしたらこういう経験、振り返れば、大なり小なり誰にでもあることではないでしょうか。

大事なことは、その経験を振り返り、問い直すことができるかどうかです。省みることができない過去は、変えることはできません。だからこそ、「対話」できる相手を大切にしたり、自ら「対話」の場を切り拓いていくこと。その努力の積み重ねで、初めて過去のある時点から、自分が変わったことに気づけるような気がします。

変化とは、過去を問い直す自らが創り出す産物。そして、その「気づき」が未来を変えていく。そんなふうには、思えませんか。

次回は同じテーマで、違うストーリーをご紹介したいと思います。

 

 

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