今日の材料:人間関係、網の目、結び目、主体性
インターネットが普及し、不特定多数の人々が情報を受発信できるようになってから、人との関係性に対する私たちのとらえ方は大きく変化しました。
ネット(網の目)とはよく名付けたもので、無数の網が絡まり合い、複雑な構造を織りなしています。以前【「なるほど!」と思うことを大切に】という記事でも書きましたが、あるコメントがモラルを問われぬままに大勢の影響力を持つようなことが起こるようになったのも、ネット構造の力の一つなのかもしれません。
ただSNSに限らず、こうした集団心理は日本社会の根底に常にありました。
いじめがその典型的な事例かもしれません。近年では「教師いじめ」という衝撃的な事件もありましたが、学校だけでなく職場やコミュニティ、親同士の関係性など、集団があるところには必ずある種のパワー関係があり、こうした不具合が起こりがちです。
このブログを訪れてくださった方も、何かしらネット上の人間関係に悩みを抱えてこられたのでしょうか。集団心理、パワー関係―こうした問題がネットの普及により複雑化し、家にいても安らげない状況を作り上げているような気がします。
でもその一方で、大きな喜びを与えてくれる出来事もまた、人との関係性の中で起こります。誰にでもこうした経験が一つ二つ、もしかしたらそれ以上に記憶にあるのではないかと思います。
私がSNS上の関係性を通してとても嬉しかった出来事の一つは、私のブログを他のブロガーさんが紹介してくださったことです。とても示唆に富む言及でした。
「毎日ブログを書いていると、何かの巡り合わせで新しいブログとつながりを持つことができる」-
ほんの小さな、偶然のつながりです。実は私もこの方のブログを読んでいて、物事のとらえ方やブログ観など、共感するものがありました。
それは、広い網の目(ネット)の中での小さな結び目(ノット)なのかもしれません。
このネットとノットという言葉が、SNSを含めた人間関係の複雑な問題に対応する上で、1つのヒントとなるような気がします。
この言葉は、教育学博士のユーリア・エンゲストローム氏の著書から拝借しました。
エンゲストローム氏は日々の活動から起こる学習の在り方について、新たな見解を示しています。既存の枠組み(チームや学校、組織など)を越え、ノットによって創発的に広がっていくことこそ、これまでにない新たな学びを引き起こすというものです。
興味がある方はぜひ、『ノットワークする活動理論: チームから結び目へ』(新曜社)をお読み頂ければと思いますが、とても難しい理論で私自身、きちんと理解できているわけではありません。
でも、このネットとノットという言葉自体が、私の中での引っかかりー結び目となりました。
SNSでたくさんの情報が溢れる中、私たちはどうしても人の目を引く情報に引き寄せられてしまいます。それ自体は悪い事ではありません。ただ、一度立ち止まってその情報に対する何が自分にとってのノットなのか、考えてみる必要があると思うのです。
そして勢いで同調したり反論したりするのではなく、まずは自分でそのノットをきつく締めたり緩めたりしながら、一体何が引っかかるのかを熟慮した上で、その考えを表明するべきではないでしょうか。
エンゲストローム氏は結び目によって広がる活動をネットワークならぬ「ノットワーキング」とし、ノットを中心とする主体的な活動と考えています。共感するにしても反対するにしても、しっかりと自分の軸を持つことが必要なのです。
これはSNSを含めた人間関係にも言えることです。もし今、純粋な興味や共通性を越えた関係性に縛りつけられているなら、あなたにとって何がノットなのかをもう一度よく考えてみてください。
そしてもしそれがただ網の目のしがらみに絡まっているだけならば、ノット以外のことにしがみつく必要はないのではありませんか。
「広く浅く」でも「狭く深く」でもない、この「ネットからノットへ」という人間関係の広げ方が、今私の中で一番しっくり来ています。
追記)他にも人間関係に関連する記事をいくつか書いています。